去る2月1日(土)、【やまつり再発見】と題して「南郷を楽しむ会」を開きました。
昨年9月に10周年を迎えた時に、自分たちが暮らしている町のことをもっと知りたいなという思いがむくむく湧いてきました。
身近なものから、実際に現場に足を向け、携わる方のお話を聞くことで見えてくる「やまつり」があるんじゃないか、というのがきっかけとなり、「南郷を楽しむ会」を開くに至りました。
藤井社長に協力をお願いに行ったのは9月の初め。
「せっかくだったら、急がず、酒造りの現場が見られる冬にやりましょう」と藤井社長さんからご提案いただき、今回の開催に至ったわけです。
藤井社長さん、酒造店の皆さん、お忙しい中どうもありがとうございました。
さて。
イベントが「土曜日」の「午後3時」という、予定を入れるには何とも中途半端な(苦笑)日時設定にもかかわらず20人近くのお客様がご参加くださいました。
こちらで醸している主要銘柄「南郷」が屋号状態になるくらい地元の人に愛されている「藤井酒造店」。
「藤井酒造店」「藤井社長」と呼んだことはほとんどなく(笑)「南郷」「南郷の社長」の方が町内ではよく使われているかもしれません。
こちらの創業はなんと天保6年。西暦でいうと、1835年。
…と言っても、「へえ、あのころかあ」と思える人はごくわずかでしょう(笑)
調べてみると、この年生まれた有名人は
・福沢諭吉(慶應義塾大学創始者)
・前島密(近代郵便の父)
・岩崎弥太郎(三菱財閥創業者)
・土方歳三(新撰組副長)
幕末から明治維新のころに活躍した人たちが生まれた年。
激動の時代の幕開けの直前に、南郷は誕生したのですね。
この「南郷」という銘。
福島県会津地方にはかつて「南郷村」があったので(現在は合併して南会津町になっています)、他県の人たちは混乱されるそうです。
南郷の社長(いつも通りの呼び方の方がしっくりしますのでこちらで)によると、これは創業当時あった棚倉藩(現在の東白川郡棚倉町)から見て南の郷ということで名づけられたのではないかとのこと。
棚倉町より北にある石川町あたりことを「北郷」と古くは読んでいたということですから、なるほどそうかと思われます。
(ちなみに棚倉より格が高い白河藩との間にあるのは「表郷」。地名からわかる歴史、です)
当店で、まずは酒造りについてのあれこれを聞かせていただいてから、2班に分かれて酒蔵見学へ。
酒蔵ではこんこんと湧き出る仕込み水を飲ませていただきました。
甘さを感じる柔らかな水。近隣の山々が生み出すおいしいお水です。
そして、仕込んで8日目の酒が入る樽の中をじかに見せていただくことに。
「え?いいんですか?」と恐る恐るはしごを上る参加者の皆さん。
南郷の社長は手に大きなカップと柄杓をもって手も使わずすいすい上がっていきます。
「樽のへりに手をついて、顔を中にぐっと入れてみてください」と社長。
なんだろう?何か音でも聞こえるのかな?と顔を入れてみると…
「うわぁっ!!!」と一斉に顔をあげる参加者の面々。
匂いでも音でもなくなんとも言えない衝撃で、中には顔を樽からあげてむせ返る人も。
「ほら、びっくりしたでしょう?これは今活発に発酵していることによって発生する炭酸ガスです」と満面の笑みで答える社長(笑)
「絶対にあってはならないことですが、この中に落ちると人は死にます。おぼれるのではなく、酸欠のためです。
炭酸ガスの層が皆さんが顔を入れたあたりまであるので、当然と言えば当然です。
仕込んで8日目の酒(もろみ)は、発酵が少し落ち着き始めたころではあるのですがそのくらいの力があるのです」
そして、手慣れた様子でそのもろみをすくい、その後、そのもろみを飲ませていただきました。
炭酸ガスのジュワッとした風味。口にまだ少し残る米の食感。
麹で作る甘酒のような味なのですが、それよりももっとさっぱりとしていて飲み口がいい。
「アルコール度数は今日の時点で4%くらい。でも、この後デンプンのものを口にすると胃の中で発酵が進みますからね。
飲み口がいいと言ってがぶがぶ飲むと、帰れなくなります」とのこと(笑)
その後、店に帰って当店の料理とのコラボレーション。
今回は南郷(藤井酒造店)の様々なお酒を料理に合わせて様々な温度で飲みました。
「いろんな温度で飲んでみると、『ああ、自分が一番心地いいのはこの温度だな』というのがわかりますよ。
正解があるわけではなくその人の好みですから、熱めが好きな人もぬるめが好きな人もいていいんです」
また、和らぎ水(お酒の合間に飲むと舌がリセットされてお酒や料理がまたおいしく楽しめるというだけでなく、
体内のアルコールを薄める働きもする)には、贅沢にも南郷(藤井酒造店)の仕込み水を。
和らぎ水を飲みながらお酒を飲み、料理を食べ、大いに語り合い、「お酒と料理を楽しむ」という範疇を越えた素晴らしいひとときとなりました。
お客様からは、
「まさか樽をのぞかせてもらえるとは思わなかった。ありがたかった」
「あの炭酸ガスは衝撃的だった。でも、ああ、この中で小さな命がうまい酒のために働いているんだなあ、という感動があった」
「毎日手をかけ心を配り繊細な仕事をして、南郷が生まれてくるとは知らなかった。こういう凄い仕事をしている人たちが同じ町内にいるなんて、と思うと感慨深かった」
など、うれしいお声を頂戴しました。
さて一方調理場では。
さかな家店主は、お客様の食べ進み具合、飲み進み具合を見計らいながら次の料理をお出しするのに走り回り。
私は私で、それぞれの料理に合わせて事前に南郷(藤井酒造店)の社長が考えてくださったお酒を指定された温度に燗をつけるのにてんてこまい。
ただ温度計を見てその数字に合わせるだけではなく、ぐい飲みに注いだ時点で下がる分まで見越した温度設定だったためかなり緊張しました。
日本酒と、燗の奥深さを痛感した日にもなりました。
今回集まって下さった皆さんの中には、様々なプロフェッショナルがいらっしゃり、第二・第三の【やまつり再発見】が企画できそうで早くもウキウキしています。
また、今回残念ながらご参加いただけなかった大勢の皆さんから「日曜日にしてくれたら、参加できたのに!!」というお声も頂戴しております。
次回、ぜひお楽しみにしてください。
そして、やまつりの魅力を皆さんで再発見できたら楽しいだろうなあと思っています。」
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