「イタリアン」の話。

ほんとのなまえは「ジャガイモ饅頭トマトソース添え」。


7月中旬からお盆まで続く新盆のご予約。
一山超え、ふた山超えて、ようやくゴールが見えてきました。
夜の間に仕込み、朝から仕上げ・盛り付けをし、お昼にお客様をお迎えして、昼下がりに片づけをし、通常営業を終えたらまた仕込みをして…
というサイクルで店の中は動いています。
例によって店主はここ数日店に泊まり込み、そのサイクルの中心で動き回っています。
仕事に集中できるという意味ではよいみたいですが、忙しさのピークに差し掛かると完全に世の中と隔絶されまさに浦島太郎状態。
当然休める時間は限られていますから、疲れもたまってきます。

そんな中で、お客様の何気ないひとことにホッとしたりフッとしたり(笑)。

ある日のお客さま。
「いや、この『イタリアン』うめぇなあ」と一言。
周りのお客様も頷きながら、「今日はこれが一番うめぇ。」「まさか今日こんなうんめぇ『イタリアン』が食えるとはなあ」などと口々に。
… い、イタリアン?
確かにニンニクが香るトマトソースを添えていますが、当店のスタッフの中でこの「ジャガイモ饅頭」を「イタリアン」と呼ぶものはおらず、しかしこの日のお客様の中ではなぜか浸透している呼び名…(笑)
それに、実はこうして声をかけてくださったお客様の年齢がかなり高かった(といっても70代の方でしたが)だというのも意外でした。
すべてのお客様に当てはまるわけではありませんが、お客様の好みとしてある程度年齢層が高いときは、手が込んだものよりもシンプルで昔ながらの味付けのものの方が好まれる傾向があります。
そういう意味ではこの「イタリアン」はそれにはちょっと当てはまらず、ちょっとびっくりしたわけです。

「いやうめぇ」「うめぇ」と連発するお客様。
そして一言。

「いやあ、ここは矢祭の『すずふり亭』だ」。

そう、うめぇうめえと「イタリアン」をほめてくださっていたお客様は皆さん、NHK朝の連続テレビ小説「ひよっこ」を欠かさず見てらしたのです。
…ご存じない方にご紹介しますが、「ひよっこ」の主人公みね子は奥茨城村の出身。
そしてその「奥茨城村」のモチーフになっているのは、矢祭町から車で十数分の茨城県大子町・常陸太田市(旧里美村)界隈なのです。
世代的にご自身の青春時代と重なる部分の多い世代の方にとっては、みね子たちに青春時代の自分の思い出を重ねていらっしゃることでしょう。
主人公みね子が上京し働いている赤坂の洋食レストラン「すずふり亭」では、時々ものすごくおいしそうな洋食が登場しています。
毎朝、見るからにおいしそうな洋食を目にしていて、きっと無意識のうちに「洋食を食べたい」「洋食を食べて『うんめぇなあ』」と言いたいという意識になっていたのでしょう。
そして、当店でたまたま出てきたトマトソースが添えられたジャガイモ饅頭に、何か重なるものを感じられたに違いありません。
…そしてきっと、「トマトソース=イタリアン」になったのでしょう(笑)

お料理をほめていただけること、お腹いっぱい召し上がっていただけることは料理を提供している身としてこれほどありがたいことはありません。
それが、お客様の何かの思い出やエピソードとつながればなおさらです。

残念ながら当店で「イタリアン」の名前は採用されませんでしたが、仕込みの時間店主がおもむろに「さて、イタリアンのソース仕込むか」と口にしたのを、私は聞き逃しませんでしたよ。

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