招いた、猫。

ひとりごと

8年前に写した写真。

8年前に写した写真。

オープン直後に、お客様から大きな招き猫をいただきました。
「玄関に飾ったらいいんじゃないかなと思って」と、わざわざぴったり合う木の台座と一緒に。
それから10年、ずっとその招き猫はお客様を一番にお迎えしてくれていました。
「方角的にとってもいい方向を見ているね」とか「きれいな顔した招き猫だね」とか、お客様がほめてくださることもしばしば。
ようやく喋るようになった小さなお客様が「にゃんこ、にゃんこ、ねー」などとお喋りしては、にっこり笑ってくれることもよくありました。
その招き猫にはお金が貯められるようになっていました。
それを知ったお客様がお金を入れてくださったり、おつりの余りを置いて行かれた際に、その中に入れるようになりました。
その後、某テレビ局のチャリティー番組用の募金箱をその前に置くようになり、お客様がそちらに入れていかれることも増え、いつしかその招き猫の中のお金のことも忘れていました。

おかしい、と気づいたのは、家族での仙台・飯坂温泉旅行から帰ってきた昼過ぎ、お店に入って10分と経たないうちです。
いつも招き猫の前に置いていた、ふくしま手ぬぐいのカード立てが変なところに移動していたからです。
玄関を確認すると、あるはずの招き猫と募金箱がそっくりないこと、周りに小銭が散乱していたのにすぐ気づきました。
その後、開いているはずがない客席奥の窓のかぎが開いていて(しかし、窓は閉められロールカーテンも下がっていた)、そこに小銭が落ちていました。
警察を呼び、検分をしていただきました。
お店の一部に足跡が残されていることがわかりましたが、それ以上のことはわからなかったということでした。
不思議なのは、招き猫以外に何か探した形跡が全くなかったこと。
招き猫の近くにはレジも置いてありましたし、調理場奥には事務所もあります。
(ちなみに、どちらにも普段から金品は一切置いていません)
そちらはもちろん、ほかのどの部分も荒らされた様子が全くありませんでした。
警察の方の話によると、実は近くで同じように招き猫を狙った窃盗が今年に入ってあったとのこと。
「そのときはね、近くに招き猫は捨ててあったんですよ。」というお話に、無事に招き猫が見つかってくれればいいけれどと思っていました。
正直、中に入っていたお金はどうでもよく招き猫さえ帰ってくればいいと思っていました。
お客様からお預かりした募金箱も盗られてしまって申し訳ないという気持ちはありましたが、お金目当ての窃盗では帰ってくることはないだろうと。

きれいな顔が見られたことが、せめてもの救いです。

きれいな顔が見られたことが、せめてもの救いです。

招き猫が発見されたのは、それからすぐでした。
店内の検分からいったん戻った駐在所に、留守電で「招き猫が捨ててありました」という連絡が入っていたのです。
当店から歩いて5分とかからない場所で、招き猫は発見されました。
「見つかったのはいいのですが、すでに壊されていました。しかしそれには事情があって…」
聞くと見つけてくださったのは役場の方で、最初は不法投棄だと思われたそうです。
ごみとして出すのにそのままでは大きすぎると、割ったとのことでした。
しかし、やっぱり様子がおかしいということで「一応」警察に届け出てくださったのだそう。

ごみとして捨てられる前に、見つかってよかった。
それに、うちで無くなったことに気づいてからわずか3時間で見つかったことも、我が家にとっては奇跡的でした。
雨に打たれたりして汚れることもなく、きれいな状態で見つかったことも。
私は、きっと、この招き猫が自分を見つけてくれる人を呼び、警察を呼んでくれたんじゃないかなと思っています。
そうでなければ、きっとこんなにすぐには見つからなかっただろうと。
変な話、見つかったことで少しほっとしています。
ひどい姿で見つからなかったことも、ほっとした理由の一つです。

DSC02049面白半分で、盗っていったのかもしれません。
ほんの出来心で、盗っていったのかもしれません。
何か理由があって、盗っていったのかもしれません。
それは、盗っていったその人が見つからなければわからないことです。

もし、盗った人が見つかったら言いたい。
あなたは、お金以上に大切なものを私たちから奪っていったのですよ、と。

警察の方が置いていってくださった、招き猫のかけらたちは今、お店にあります。
これまで本当にありがとう、と、きちんとお礼を言って土に返そうと思っています。
がらんと開いた玄関の台座の上。
これまで招き続けてくれた猫が、ずっと見守っていてくれた場所です。

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